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質量則とは?遮音性能を高める基本法則~コインシデンス効果についても解説~

みなさん、こんにちは!

大阪を中心に関西の防音室の設計・工事をしている創和防音です。


防音室は遮音性能の高い床・壁・天井に囲まれています。


ですが、「遮音性能」は一体どのようにして高められているのでしょうか?


遮音性能を高めるひとつの方法として「質量則」という遮音にまつわる法則を活用する方法があります。


今回の記事ではこの「質量則」とは何か?について説明したいと思います。



 

■「遮音性能を高める」とは?

そもそも、遮音性能を高めるとは具体的にどういったことを指すのか確認しておきたいと思います。


音は空気中を伝わり、壁や床などの物体に当たると、「反射・吸収・透過」のいずれかの振る舞いをします。

上の図の「透過音」を小さくする(遮音量を増やす)ことが「遮音性能を高める」ことだと言えます。


なお、この遮音量のことを「透過損失」とも呼びます。

(音の透過損失についてはこちらの記事で解説しています。)


 

■質量則とは?

質量則とは、面密度(単位面積あたりの質量)が大きいほど、音の透過損失(遮音量)が大きくなるという法則です。


簡単に言うと、質量則は重い材料ほど音を遮断する効果が高いということを示したものです。


なお、質量則は以下のような式で表されます。

質量則による透過損失の計算式

また、経験的に求められた式として次の式もあります。

経験的に求められた質量則による透過損失の計算式

この式を解くと、材料の面密度を2倍に、もしくは入射音の周波数を2倍にするごとに透過損失が約5dBずつ増加することがわかります。


つまり、嚙み砕いて言うと


  • 材料が重い程遮音量が増える

  • 入射音に対して「高い周波数」ほど遮音しやすく、「低い周波数」ほど遮音しにくい


ということがわかります。


●注意点

質量則の式を使用すればその材料の透過損失を求めることが出来ますが、この式で透過損失を求めることが出来るのは「密実な一重構造の材料」のみになります。


たとえば「ガラス」や「コンクリート壁」などがそれに当たります。


LGS下地に石膏ボードを貼り付けた乾式壁などは「密実」でも「一重構造」でもないため、質量則の式によって透過損失を求めることは出来ないため注意が必要です。


 

■質量則の活用例

質量則によって「重い材料ほど遮音性能が高い」ことがわかりました。


では防音室では実際にどのように質量則が活用されているのでしょうか。


いくつか活用例を紹介したいと思います。


●石膏ボード

ひとつは「石膏ボード」を利用した遮音壁です。

石膏ボードの写真

出典:吉野石膏


石膏ボードは面密度が高いため遮音性に優れます。


また加工もしやすいため一般的な防音室の壁には必ずと言っていい程採用される材料です。


石膏ボードを使った遮音壁は下の画像のような形で、木もしくはLGS下地に固定する形で使用されます。

石膏ボードを使った遮音壁の例

出典:吉野石膏


弊社が設計する住宅などに設置する防音室でも必ず石膏ボードを使用しています。


●コンクリート

もうひとつはコンクリートです。

コンクリート壁の写真

面密度が非常に高いため遮音性も高いですが、非常に重いためコンクリートを使用した部屋はその建物の設計時点で計画されている必要があります。


つまり、石膏ボードのように後から部屋に設置するといった使い方は難しいです。

(建物の1階部分などであれば導入できる可能性はあります。)


コンクリートを使った遮音壁の例としては「残響室」などが挙げられます。

残響室の写真

残響室は非常に高い遮音性が求められます。


そのためコンクリートを使用した壁が採用されます。


●他にも面密度が高い材料はあるものの・・・

金属全般は面密度が非常に高い材料ですが(大抵はコンクリートよりも面密度は高いです)、防音室の壁・床・天井に採用されることはあまり多くありません。


防音室に採用されづらい理由としては現地での加工のしづらさが挙げられると思います。


また、面密度が高すぎると非常に重たくなるため防音室が重くなりすぎてしまい、建物の許容荷重を超えてしまう問題も発生しやすくなります。


 

■質量則の落とし穴~コインシデンス効果について~

質量則によって「密実な一重構造」の透過損失を計算によって求めることが出来ます。


しかし、実際に密実な一重構造の壁を設置して音響透過損失を計測した場合に計算通りの透過損失になるかと言うと、実はそうではありません。


なぜかというと「コインシデンス効果」というものがあるためです。


これは、その材料の固有振動数(コインシデンス限界周波数)において遮音性能が低下する現象で、入射する音波によってその材料の固有振動数で材料が共振することにより音を透過させやすくなってしまうことにより起こります。

コインシデンス効果による遮音性能の低下を説明した図

図にすると、このように一定の周波数帯のみ透過損失が下がるような形になります。


そのため、一部の周波数帯に関しては質量則の計算通りの音響透過損失とならないのです。


●コインシデンス効果に対する対策について

コインシデンス効果による遮音性能の低下を防ぐためには、異なる固有周波数を持った材料を貼り合わせることで互いの共振現象を抑える方法などが考えられます。


たとえば、石膏ボードを使用した遮音壁ではコインシデンス効果による透過損失の低下を軽減することを意図して下の画像のように厚みの異なるものを貼り合わせることがあります。

厚みの違う石膏ボード同士を貼り合わせてコインシデンス効果を軽減している例

出典:吉野石膏


厚み9.5mmのものと厚み21mmの石膏ボードを貼り合わせていることがわかると思います。


 

■まとめ

  • 質量則は簡単に言うと、重い材料ほど音を遮断する効果が高いということを示したもの

  • 質量則は厳密に言うと、材料の面密度を2倍に、もしくは入射音の周波数を2倍にするごとに透過損失が約5dBずつ増加する関係のことを指す

  • 質量則で透過損失を求めることが出来るのは「密実な一重構造の材料」のみ

  • 質量則を防音室に生かした例として面密度が高い「石膏ボード」を使用した遮音壁、「コンクリート」を使用した遮音壁などが挙げられる

  • 金属全般も面密度が高いが、施工性や重量の問題から防音室に採用されることは比較的少ない


 

■おまけ

●遮音性能の向上は質量則だけでは限界がある

今回の記事では質量則を活用することで遮音性能を向上できることを説明しましたが、実際の防音室の遮音性能の向上には質量則だけに頼るわけではありません。


というのも、質量則だけで遮音性能を向上させようとした場合、防音室自体が重くなり過ぎてしまい、建物の許容荷重を超えてしまう懸念などから現実的でない場合が多いからです。


また、質量則はあくまで「空気伝搬音」の遮断に適用できる法則で「固体伝搬音」には適用できません。


つまり、「振動」を伴う音に対しては質量則だけでは対策できないのです。

(例えばピアノのペダル操作やドラムのキックペダルなど)


そのため、実際には防音室の遮音性能は「質量則」に加えて「中空構造」と「防振」を組み合わせて向上させることが一般的です。


「中空構造」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。


「防振」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。


そして、これら3つの要素を組み合わせた時に生まれるのが防音室のための構造である「浮き構造」(Box in Box構造)です。

こちらも以下の記事で詳しく解説しています。



気になった方は是非読んでみてください。


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