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中空構造とは?遮音性能を高める基本~共鳴透過現象についても解説~

みなさん、こんにちは!

大阪を中心に関西の防音室の設計・工事をしている創和防音です。


防音室の遮音性能を高めるためには「質量則」「中空構造」「防振」の3つを組み合わせる必要があります。


今回の記事では「中空構造」について説明したいと思います。


 

■中空構造とは?

中空構造とは材料と材料の間に空気層(中空層)を持っている構造のことです。

中空構造の概念図

防音室で必ずと言って良いほど採用される構造です。


中空構造は効率よく遮音性能を上げることが出来る構造です。


なぜ、中空構造で遮音性能を効率よく上げることが出来ると言えるかは「質量則」と比較することでわかりやすくなります。

(質量則についてはこちらの記事で解説しています。)


※質量則とは簡単に説明すると、材料の重さを2倍にすると遮音性能が約5dB高まる法則のことです。


下の画像を見てください。

中空構造で遮音性能が高まる理由

たとえば透過損失が30dBの単一材料の壁があったとします。


これをそのまま重ねた場合重さが2倍になるので「質量則」によりその透過損失は約35dBになります。


しかし、これを重ねずに中空層を設ける形、つまりそれぞれの壁を離して設置すれば都合上「2枚の壁が並んでいる」ような形になるため、

30dB+30dB=60dB(※)

の透過損失になる可能性があります。


※実際には単純な足し算で透過損失を算出することは出来ませんが、ここでは説明のため単純化しています。

※仮に実際に30dBの透過損失の壁を組み合わせて60dBの透過損失を達成する場合、中空層をかなり大きく設ける必要があります。


「質量則」のみに頼った場合は重量が2倍になっても透過損失は約5dBしか向上しません。


しかし、「中空構造」を採用すると「質量則」のみに頼った場合よりも大幅に遮音性能を向上させることができるのです。


これが遮音壁において中空構造が必ず採用される理由です。


 

■中空構造の弱点~共鳴透過現象について~

しかし、中空構造はメリットばかりではありません。


それは、「共鳴透過現象」という特定の周波数帯において遮音性能が下がる現象が発生するためです。


●共鳴透過現象(太鼓現象)とは

共鳴透過現象とは中空構造において発生する現象で、2枚の板状材料それぞれの質量と中空層の空気がバネとして働くことで共振が起こり、特定の低音域で透過損失が減少して遮音性能が低下するというものです。


この現象は太鼓の音が鳴る原理と同じであることから「太鼓現象」とも呼ばれます。

(太鼓も皮と皮の間に空気層を挟んだ構造をしており中空構造になっていますよね。)


文章だけではイメージしづらいと思うので共鳴透過現象の原理を図にしてみました。

共鳴透過現象の概念図

特定の周波数帯で透過損失が低下する現象としては「コインシデンス効果」と似ていますが、共鳴透過現象では低周波数帯で透過損失の低下が発生する点が異なります。

(コインシデンス効果は高周波数帯で透過損失の低下が発生します。詳しくはこちらの記事で解説しています。)

中空構造の共鳴透過現象による遮音性能の低下の図

図にすると、このように特定の低音域の周波数帯のみ透過損失が低下するような形になります。


※なお、中空構造においても一重構造と同様にコインシデンス効果が発生します。


図からわかる通り、中空構造にした場合は一重構造よりも特定の低周波数帯においては透過損失が低く遮音性能が劣ることがわかります。


これが中空構造の弱点です。


●共鳴透過現象による遮音性能低下を緩和する方法

この弱点を緩和する方法もあります。


ひとつは中空層にグラスウールなどの多孔質の吸音材を充填する方法です。

中空構造の共鳴透過現象による遮音性能の低下の図2

この方法の場合、図の緑色の破線を見てわかる通り全体的に透過損失が上昇するため共鳴透過現象による遮音性能の低下する周波数帯においても透過損失の低下が緩和されます。


実際、中空構造を採用した遮音壁ではほぼ必ずと言って良いほど中空層にはグラスウールが充填されます。


下の画像のような形です。

中空構造の乾式遮音壁の内部でグラスウールが充填されている図

出典:吉野石膏


中空層にグラスウールが充填されていることがわかると思います。


●共鳴周波数は調整できる

共鳴透過現象によって特定の低周波数帯(共鳴周波数)において透過損失の低下が発生することはわかりましたが、その共鳴周波数はどのように決まっているのでしょうか。


共鳴周波数は下の式で求めることが出来ます。


共鳴周波数を求める公式

この式から中空層の厚みと材料の面密度に比例して共鳴周波数が低くなっていくことがわかります。


つまり、共鳴周波数は中空層の厚みと材料の面密度によって調整できるのです。


図にしてまとめてみました。

共鳴周波数を左右する要素の説明図

基本的には共鳴周波数は低い周波数になるように調整することが多いです。


というのも、1000Hz~4000Hzあたりの中~高音域は人間の聴感上大きく感じやすい周波数帯であり、逆に低音域の周波数帯は小さく感じやすいので、共鳴透過現象が発生する周波数帯は低い方が人間の聴感上は静かに感じることが出来るためです。


 

■まとめ

  • 「中空構造」とは材料と材料の間に空気層(中空層)を持っている構造のこと

  • 「中空構造」を採用すると「質量則」のみに頼った場合よりも大幅に遮音性能を向上させることができる

  • しかし、中空構造はメリットばかりではなく「共鳴透過現象」という特定の周波数帯において遮音性能が下がる現象が発生する

  • 共鳴透過現象とは中空構造において発生する現象で、2枚の板状材料それぞれの質量と中空層の空気がバネとして働くことで共振が起こり、特定の低音域で透過損失が減少して遮音性能が低下するというもの

  • 共鳴透過現象により、中空構造では一重構造よりも特定の低周波数帯においては遮音性能が劣る

  • 共鳴透過現象による遮音性能の低下を緩和する方法として、中空層にグラスウールなどの多孔質の吸音材を充填する方法がある

  • 共鳴透過現象が発生する周波数(共鳴周波数)は「中空層が広いほど・材料が重いほど」低くなり、「中空層が狭いほど・材料が軽いほど」高くなる法則があるためこれを利用して共鳴周波数を調整することができる。

  • 人間の聴感上、高周波数帯ほど大きく、低周波数帯ほど小さく感じることから共鳴周波数は低い周波数帯になるように調整することが多い


 

■おまけ

遮音における中空構造について紹介してきましたが、この構造は実は建物の色々な箇所で見ることが出来ます。


しかし、その中空構造のほとんどは遮音性能を上げるために中空構造になっている訳ではなく、

「給排水・空調用の配管や電気配線を通すためのスペースを確保するためのスペースとして中空層が存在しているケース」

や、

「特定の工法で施工した結果材料と材料の間に隙間が生まれて結果的に中空構造になっているだけであるケース」

などがほとんどです。


そのため、結果的に中空構造になっているだけの場合は共鳴透過現象に対する対策などが取られていることは少ないため、建物に存在するほとんどの中空構造は建物の遮音性能を下げる要因のひとつになってしまっていることが多いです。


そこで、ここでは建物に潜んでいる「遮音性能を下げる要因となっている中空構造」を紹介していきたいと思います。


●天井

ほとんどの建物の天井は中空構造になっていると言えます。


しかし、遮音性能を上げるために中空構造になっている訳では無く給排水・空調用の配管や電気配線を通すためのスペースを確保するために中空層が存在しているだけであることがほとんどです。

天井内部の画像

写真は弊社で防音室リフォーム工事をした際に既存天井を撤去した際のものです。


配管や配線が敷設されていることがわかります。


遮音性能の向上のために中空構造にしている訳ではない場合、太鼓現象(共鳴透過現象)の対策として中空層にグラスウールなどを充填することなどもあまり無いため、遮音性能の悪い天井になってしまいます。


しかし、ほとんどの建物の天井はそうなっています。


●壁

記事の本編でも紹介しましたが、石膏ボードを使用した乾式遮音壁はほとんど中空構造です。


ここでは本編で紹介した以外の中空構造の壁を紹介したいと思います。


「GL工法」と呼ばれる方法で施工される壁があります。


GL工法とはコンクリートの壁に下地を使わずにボンドをコンクリート壁に塗り付け、石膏ボードを直接貼り付ける工法で、施工性が良いこととコストが低いことが特徴です。

GL工法の写真

出典:吉野石膏


しかし、このGL工法で施工された壁は遮音性能が悪くなります。


理由について説明します。

GL工法の壁の断面図

GL工法による中空構造の様子を図にしてみました。


図からわかる通り、中空層の厚みが非常に薄いことがわかります。


本編で触れましたが、中空層の厚みが薄いほど共鳴周波数は高くなります。


その結果としてGL工法の共鳴周波数は250Hzほどとなるのですが、これは丁度人の会話時の声の周波数に近いためGL工法の壁では隣の部屋の話し声が聞こえやすくなってしまうと言われています。

GL工法の壁とコンクリート単体壁の遮音性能の比較

上の画像はGL工法の壁と、GL工法を行わないコンクリート壁単体の遮音性能を比較したものです。


GL工法の方はコンクリート壁単体と比べて250Hz付近で遮音性能が大きく落ち込んでいることがわかります。


これが太鼓現象(共鳴透過現象)による影響です。


なお、4000Hz付近でも遮音性能が落ち込んでいるのは石膏ボードのコインシデンス効果によるものです。


●床

床も天井と同様に給排水の配管や電気配線などを通すためにスペースを確保している場合があります。


中空層を持つ床は二重床と呼ばれています。

二重床の写真

上の写真が実際の二重床の様子です。


マンションの居住空間の床もこのように二重床になっていることが多く非常に身近なものであると言えます。


しかし、この二重床も太鼓現象(共鳴透過現象)を起こすため低周波数帯において遮音性能が下がっています。


※最近は騒音問題に対する意識の高まりから、二重床を提供するメーカーの製品で二重床の根元の部分に防振ゴムが設置されたものなどが増えており、遮音性能の低下は軽減されている傾向にあります。


●窓

多くの窓は単板ガラス(1枚のガラス)ですが、断熱性能の向上を目的として複層ガラス(ペアガラス)が使われることが増えてきました。


複層ガラスとは中空層を持った2枚のガラスで構成されたガラスで、中空層を持たせることにより断熱性能を向上させたものです。

複層ガラスの画像

中空層側にLow-E金属膜というコーティングを施すことで日射エネルギーを反射する性能を付加したものもあります。


しかしながら、こちらも太鼓現象により遮音性能は単板ガラスより劣る傾向にあります。


●最後に

いかがでしたでしょうか。


実は建物には「遮音性能が下がってしまう中空構造」が沢山潜んでいます。


中空構造は遮音性能を向上させる目的で採用する場合には非常に良い働きをするのですが、遮音を意図していない中空構造はことごとく遮音性能を下げてしまうのです。

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