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遮音等級D値とは?

みなさん、こんにちは!

大阪を中心に関西の防音室の設計・工事をしている創和防音です。


防音室を購入しようと考えたことがある人は「Dr-○○」といった形で防音室の性能が示されているのを見たことがあるのではないでしょうか。


これは遮音等級D値(Dr値)と呼ばれるもので、簡単に言うとその部屋がどれくらいの音を遮断することができるかを等級(レベル)にして表したものです。


防音室は「騒音によるトラブルを防ぐため」に導入されるものです。


そのため防音室の遮音性能を表す遮音等級D値は防音室にとって非常に重要な尺度です。


この記事ではそんな「遮音等級D値」について簡単に説明していきたいと思います。


 

■遮音等級D値(Dr値)とは

遮音等級D値(Dr値)とは、その部屋がどれくらいの「空気伝搬音」を遮断することができるかを等級(レベル)にして示したものです。


※厳密には2室間(音源室側と受音室側)の「室間音圧レベル差」というものに対して等級を定めたものですが、ここでの詳細な説明は割愛させて頂きます。

この記事の末尾の「おまけ」の中で詳細な説明をしていますので興味があったら読んでみてください。


冒頭に書いたことと大きく変わっていませんが、冒頭の文章と比較して「空気伝搬音」というワードが新たに出現しています。


空気伝搬音とは空気が振動することにより伝わる音の事で、言ってしまえば普段から耳にしている普通の音の事です。


なぜ、わざわざ「空気伝搬音」と表現しているのかというと、音にはもう1つ「固体伝搬音」というものがあり、これと区別するためにわざわざ「空気伝搬音」と表現しているのです。


なお、「固体伝搬音」は固体が振動することにより伝わる音のことを言います。

(「空気伝搬音」と「固体伝搬音」については詳しくはこちらの記事で解説しています。)


●D値とDr値の違いについて

遮音等級D値(Dr値)の表記の中で、「D値」と「Dr値」の両方が記載されていることに対して気になっていた方もいると思いますので、これについて説明したいと思います。


D値は「JIS A 1419:1992」にて1992年に規定されたものです。

Dr値は「JIS A 1419:2000」にて2000年に規定されたものです。(この時に前者の「JIS A 1419:1992」は廃止されました。)


要するに、「D値」という呼び方は2000年に廃止され、「Dr値」に改められたのです。


しかしながら、その中身が変わったわけではないので、D値とDr値は同じ意味と捉えて頂いて問題ありません。


●遮音等級D値の見方について

遮音等級D値は「D-○○」という形で表され、「D-30」や「D-60」の様に表記します。


例えば

  • D-30という遮音等級であれば30dB遮音する性能

  • D-60という遮音等級であれば60dB遮音する性能


という形で解釈頂ければ大丈夫です。

遮音等級D値の説明


 

■遮音等級D値の決定の流れについて

ここでは遮音等級D値が実際にどのようにして決定されるのか説明したいと思います。


●等級曲線図を使った遮音等級の評価方法について

遮音等級D値は「JIS A 1419」に規定されている「等級曲線図」というものを使用して決定します。


下の画像がその等級曲線図です。

空気音遮断性能の周波数特性と等級の図

この図に「JIS A 1417」で規定された通りの測定方法(※1)で測定した「室間音圧レベル差」(※2)のデータを周波数帯域毎にプロットします。


この時に記録する周波数帯域は「125Hz・250Hz・500Hz・1000Hz・2000Hz(+4000Hz)」となります。(※3)


(※1)遮音等級D値を決定するための音の測定方法には規定があり、「JIS A 1417」で規定されています。この測定方法の詳細については当記事の末尾で詳細に説明しています。


(※2)室間音圧レベル差とは音を出す側の部屋と音を受ける側の部屋で発生している音の大きさの差の事です。この記事の末尾で詳細に説明しています。


(※3)本来「JIS A 1419」では4000Hzに対する規定は無いため厳密には評価する必要はありませんが、建築音響業界では評価することがほとんどであるため創和防音では必ず4000Hzの周波数帯域も評価するようにしています。



下の画像がデータをプロットした等級曲線図です。

空気音遮断性能の周波数特性と等級の図にデータをプロットした図

等級曲線による評価では、周波数帯域毎にプロットした室間音圧レベル差がいずれかの基準曲線の全ての周波数帯域を上回っている場合に当該基準曲線の遮音等級であると評価します。


ただし、各周波数帯域に対してそれぞれ「2dB」までは下回ることが許容されています。

空気音遮断性能の周波数特性と等級の図にデータをプロットした図2

上の画像の通り、今回の場合では2000Hzの周波数帯域にてDr-50の曲線に対して2dB下回っていますが、これは許容範囲内となります。


つまりこの場合の遮音等級は「Dr-50」ということになります。


このようにして遮音等級D値は決定します。


 

■まとめ

  • 遮音等級D値とはその部屋がどれくらいの空気伝搬音を遮断することができるかを等級(レベル)にして示したもの

  • 遮音等級D値は「D-○○」と表され、○○に入る数字が大きい程遮音性能が高いことを示す

  • 遮音等級D値は「JIS A 1419」に規定された「等級曲線図」を使って決定する


 

■おまけ

本文では書ききることが難しかった内容をここでまとめています。


興味のある方は是非読んでみてください。


■「室間音圧レベル差」とは

■「遮音等級D値」を使う理由について

■創和防音では主に「日本建築学会」が規定する等級曲線図を使います

■「JIS A 1417」に規定される音の測定方法について

■「JIS A 1417」の規定による測定機器の例について


の5つについてまとめています。


 

■「室間音圧レベル差」とは

記事の中で「室間音圧レベル差」というものが出てきましたが、詳細な説明は割愛していましたのでここで簡単に説明しておきたいと思います。


そもそも遮音とは「音を遮る」ことですが、遮音等級D値はその部屋の「音を遮る量」を等級にしたものです。


そのためその部屋の「音を遮る量」の計測が必要になるのですが、それが「室間音圧レベル差」なのです。


下に「室間音圧レベル差」の簡単な図解を用意しました。

室間音圧レベル差の図解

まず音が鳴っている部屋(音源室)側で音の大きさを測ります。

この時の音の大きさが100dBだったとします。

次に音を受けている部屋(受音室)側で音の大きさを測ります。

この時の音の大きさが40dBだったとします。

この時、室間音圧レベル差はそれぞれの音の大きさの差となるため

室間音圧レベル差=100dB-40dB=60dB

となります。


要するに「室間音圧レベル差」とは「音源室側と受音室側の音の大きさの差」ということです。

室間音圧レベル差の説明

なお、この「室間音圧レベル差」は周波数帯域毎に存在するため、周波数帯域毎に計測する必要があります。


以上が「室間音圧レベル差」の説明になります。


 

■「遮音等級D値」を使う理由について

ここでは、そもそもなぜ部屋の遮音性能を表す際に遮音等級D値を使うのか?について説明したいと思います。


日本の建築音響業界では部屋の遮音性能を表す際にはほぼ必ずこの「遮音等級D値」を使います。


しかし、なぜこの遮音等級を使用することが一般的になっているのでしょうか?


それは、遮音等級D値がJISによって規定された「公正でかつ利便性の高い評価方法」であるためです。


なぜ遮音等級D値が「公正でかつ利便性の高い評価方法」と言えるのか説明したいと思います。


これは、「もし遮音等級D値が無かったら?」と考えてみるとわかりやすくなります。


実は遮音性能を遮音等級D値以外を使って表現する場合、かなり難しくなってしまうのです。


例えば防音室の性能を表現する際に遮音等級D値を使用せずに「50dB遮音する防音室」とだけ表現した場合、500Hzの周波数帯域でだけ50dB遮音する性能があるのみで、他の周波数帯域では少ししか遮音していない、という風に解釈の余地が生まれてしまうのです。(音には周波数というものがあり、遮音性能も周波数帯域ごとに存在しているためです。)


そのため遮音性能を正確に表現しようとした場合、周波数帯域毎に何dB遮音するかを指定しなければなりません。


加えて、遮音性能の測定方法についても細かに指定しなければなりません。


(どのような音源を使うのか、どのような測定機器を使うのか、測定機器はどのように配置するのか・・・などにもよってデータの数値にブレが生まれてしまい遮音性能が変わってしまうためです。)


しかし、そういったことを毎回指定すると非常に煩雑になってしまいます。


また、設計・工事をする会社ごとで「50dB遮音する防音室」の性能がバラバラになってしまい遮音性能の公正性が担保できなくなってしまいます。


ですが、「D-○○」という、JISによって規定された遮音等級D値で防音室の性能を表現する場合は

  • 「JIS A 1417」で規定される遮音性能の測定方法

  • 「JIS A 1419」で規定される遮音性能の評価方法(「125Hz・250Hz・500Hz・1000Hz・2000Hz(・4000Hz)」の全ての周波数において一定の遮音性能をクリアしていること等)

上記のような内容に対してJISの規定を満たしていることが求められます。


そのためJIS規格である遮音等級D値を使用する場合、各周波数に対する性能の指定や遮音性能の測定方法について厳密に規定されているため、遮音性能を表現する際には細かな指示などは必要なく基本的には「D-○○」と表現するだけで良いのです。


つまり、遮音等級D値は遮音性能を評価する上で必要な前提条件が規格の中で全て整備されているため利便性が高く、また、評価方法が統一されているため遮音性能の公正性も担保できるのです。


そのため、日本の建築音響業界ではJISによって規定された遮音等級D値が一般的に使われているのです。


創和防音でも防音室の遮音性能を公正に評価するために、この遮音等級D値を使用するようにしています。


 

■創和防音では主に「日本建築学会」が規定する等級曲線図を使います

ここでは、創和防音が使用している等級曲線図について説明したいと思います。


記事の本文の中で遮音等級D値を決定する際には「JIS A 1419」で規定されている等級曲線図を使用すると記載しました。


しかし、創和防音では「JIS A 1419」で規定されている図ではなく「日本建築学会」が規定している「音圧レベル差に関する遮音等級の基準周波数特性」の図を主に使用しています。

音圧レベル差に関する遮音等級の基準周波数特性

理由は「日本建築学会」の等級曲線図はJISの等級曲線で規定されている遮音等級を網羅しつつ、より広範な遮音等級をカバーしているためです。


なお、「日本建築学会」の等級曲線図とJISの等級曲線図を使った場合とで遮音等級に差が出ることはありませんのでご安心ください。(網羅している範囲が異なるだけで被っている範囲の曲線は全く同じ曲線であるため遮音性能に差は出ません。)


たとえば「D-85」の遮音等級はJISの方にはありませんが「日本建築学会」の方ではカバーされています。


下にJISで規定されている範囲とされていない範囲を色分けしたものを用意しました。

音圧レベル差に関する遮音等級の基準周波数特性の色分けバージョン

日本建築学会の方の等級曲線図では性能が低い範囲も高い範囲も幅広い遮音等級をカバーしていることがわかります。


実際、D-65以上の性能の防音室を作ることもあるため、JISの等級曲線図では対応できない可能性があります。


そのため創和防音では主に「日本建築学会」の方の等級曲線図を使用するようにしています。


 

■「JIS A 1417」に規定される音の測定方法について

遮音等級D値を測定する際には「JIS A 1417」に規定された方法に従って音の計測を行う必要があります。


「JIS A 1417」では測定機器の配置についても規定があるため、その規定を満たす必要があります。


ここでは「JIS A 1417」に準じた測定機器の配置の例について紹介します。


<測定機器の配置の規定>

まず、「JIS A 1417」に記載されている測定機器の配置の規定について整理したいと思います。


<使用機器>

●スピーカー

●アンプ(スピーカーに内蔵されている場合は別途用意する必要はありません)

●雑音発生器

●騒音計


<測定条件>

●測定点は空間的に均等に分布させること

●測定点の数は5点以上とすること

●測定点は室境界、拡散体などから0.5m以上離れていること

●測定点間の距離は0.7m以上離れていること、そのうち、少なくとも2箇所の間隔は1.4m以上とする ●音源の中心は室境界面から0.5m以上離れていること

●音源位置の設定にあたっては、側路伝搬が生じないように、また、音源室内に置ける空間的なレベルの変動が大きくならないように十分に注意すること

●音源がある側の部屋では、測定点は音源から1m以上離れていること


<推奨事項>

●特に容積の小さい室では、音源の位置は部屋の隅に設置するとよい


<備考>

●部屋の大きさによっては規定の間隔で測定点を設定できない場合もありますが、その場合は出来る限り部屋の中で測定点を均等に分布させて測定します。


概ね上記の通りとなりますが、文章ではわかりづらいと思いますので測定のパターン毎に図にしたものを下に用意しました。


<受音室側を測定する場合>

JIS A 1417 受音室側を測定する場合の機器配置

<音源室側を測定する場合>

JIS A 1417 音源室側を測定する場合の機器配置

<上下階の受音室側を測定する場合>

JIS A 1417 上下階の受音室側を測定する場合の機器配置

※上階と下階の測定は他の居住者様の空間であることが多いため、測定ができないことが多いです。

以上となります。


JISによる測定機器の配置の規定が非常に厳密に規定されていることがわかると思います。


実際には測定する現場の状況に応じて側路伝搬などが発生しないようにスピーカーの位置の工夫が必要であったり、JISの規定以外にも留意しなければならないことは多いため、遮音等級の測定は専門性の高い工程であると言えます。


 

■「JIS A 1417」の規定による測定機器の例について

「JIS A 1417」では測定機器自体についても規定があるため、その規定を満たした機器を使う必要があります。


ここでは創和防音が実際に使用している測定機器を紹介したいと思います。


<校正された精密騒音計>

「JIS A 1417」では「JIS C 1505」に規定する精密騒音計を使用することが規定されています。


ただし、現在は「JIS C 1505」は廃止されているため「JIS C 1509」に規定される精密騒音計を使用する必要があります。


創和防音ではこの規格を満たした精密騒音計として、RION社の「NA-28」を用意し指定検定機関で定期的に検定を受け、合格したものを使用しています。

RION社製精密騒音計のNA-28
RION社製精密騒音計のNA-28







<雑音発生器>

音源室内で発生させる音は、「定常で測定対象周波数範囲の全体に渡って連続的なスペクトルをもつものとする」と記載されています。


創和防音ではこの条件を満たすことができる音源としてRION社の雑音発生器「SF-06」を使用し、ピンクノイズを発生させています。

RION社製雑音発生器のSF-06

<スピーカー・アンプ>

音源の音響パワーは、「すべての周波数帯域で受音室内の音圧レベルが暗騒音のレベルよりも10dB以上大きくなるように設定する」と記載されています。


創和防音ではこれを満たすことができるスピーカー・アンプとしてアンプ内蔵型のスピーカーの「MSR-400」を使用しています。

YAMAHA社製のアンプ内蔵スピーカーのMSR-400

以上が創和防音が使用している機器になります。

他にも補助的に使用している機器などもありますが、基本的には上記の機器で遮音等級の測定を行っています。

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