防音室のための構造 浮き構造(Box in Box構造)とは?~一石三鳥の構造~
みなさん、こんにちは!
大阪を中心に関西の防音室の設計・工事をしている創和防音です。
防音室では、そのほとんどで「浮き構造」(Box in Box構造)と呼ばれる構造が採用されています。
これは普通の部屋とは全く異なる特殊な構造です。
浮いているの?
なぜそんな構造にするの?
色々な疑問が湧いてくると思いますが、この記事ではそんな浮き構造について説明していきたいと思います。
■防音室の為の構造 浮き構造とは~一石三鳥の構造~
●浮き構造の概要
浮き構造とはBox in Box構造とも呼ばれる、ほとんどの防音室で採用される部屋の構造です。
本当に空中に浮かんでいるわけではなく、建物の骨組み(躯体)と直接触れないように、躯体と防音室との間に防振ゴムなどの防振材が設置されている構造のことです。
上の画像は浮き構造を簡単に説明した図です。
上の画像の「浮き遮音層」と呼ばれる部分が防音室の壁・床・天井になるのですが、これらが全て躯体と直接触れていないのが見てわかると思います。
浮き構造は「Box in Box構造」とも呼ばれますが、その名の通り部屋(箱)の中に部屋(箱)があるような構造をしています。
これが浮き構造の概要です。
●なぜ浮き構造(Box in Box構造)は「一石三鳥」の構造と言えるのか
浮き構造(Box in Box構造)は防音にとって「一石三鳥」の構造であると言えます。
ここではその理由について説明していきたいと思います。
<理由①>
先程の図の通り、Box in Box構造の「箱」と「箱」の間には防振材が設置されているのですが、これにより躯体~防音室間に伝わる振動、つまり固体伝搬音が伝わりづらくなります。
※このようにして振動を防ぐことを「防振」と言います。
⇒「防振」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
<理由②>
「防振」の効果は防振材にかかる重量が大きい程高まるのですが、(※防振の記事参照)これは浮き構造の構造上、遮音層の重量を大きくすることで達成することができます。
(遮音層は防振材のみによって支えられており、遮音層の重量が全て防振材にかかるため。)
そのため、遮音層の重量を大きくすることで防振効果を向上させることが出来るのですが、実はこの時、防振効果が向上するだけではなく「質量則」という法則により遮音層自体の防音性能も高まるのです。
※「質量則」とは、遮音層の材料が重いほど遮音性能が高くなる法則のことです。
⇒「質量則」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
つまり、浮き構造における防振効果の向上は、質量則による遮音性能の向上も狙うことが出来るので「一石二鳥」となるのです。
<理由③>
また、浮き構造では結果的に壁・床・天井が2重になるため「中空構造」となりますが、中空構造の壁は1重の壁よりも空気伝搬音の遮断性能を大きくすることができます。(※ただし、適切な設計が必要です)
※「中空構造」とは材料と材料の間に空気層を持っている構造のことです。
⇒「中空構造」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
このように「浮き構造」(Box in Box構造)は防音性能を高める要素である「防振」「質量則」「中空構造」の3つを効率良く、「一石三鳥」的に取り入れることができるため、防音性能を高める上で非常に合理的な構造と言えるのです。
■実は色々な場所で採用されている「浮き構造」
浮き構造は防音性能を高める上で非常に合理的な構造であることがわかりました。
そのため、防音性能を必要とする空間では実際に必ずと言っていい程浮き構造が採用されています。
例えば、音楽練習室はもちろんですが、映画館、劇場、音楽ホールなどの大空間でも浮き構造が採用されています。
実は映画館や劇場、ホールの客先の下には防振ゴムがあり部屋全体が浮いているのです。
意外と身近な所に浮き構造は採用されています。
●部分的な浮き構造も
先程の例は浮き床・浮き壁・浮き天井全てが揃っているパターンになりますが、浮き床(防振床)のみ設置されているパターンもあります。
これは空気伝搬音の遮断ではなく固体伝搬音の遮断のみ重視したい空間などで採用されます。
たとえば、フィットネスジム・ダンス教室・プールなどです。
フィットネスジムはなんとなくイメージがしやすいのではないでしょうか。
トレーニング器具の多くは床に振動を起こすものが多いので、その対策だけがしたいといった需要があります。
特に、創和防音ではこういった需要に対して「ドンナラン」で多く応えてきました。
(ドンナランの施工実績はこちら)
プールで浮き床が採用されているのは意外だったのではないでしょうか?
しかし、考えてみればプールの床を蹴って泳いだりしますよね。
その時には当然振動が発生していますので何も対策しなければ下階に大きな衝撃音が聞こえてしまうのです。
実は弊社でもプールの床用の防振床を工事した経験があります。(下請けとして施工したため実績の公表をすることはできないのですが・・・)
■まとめ
浮き構造は本当に浮かんでいる訳ではない
浮き構造は躯体と防音室との間に防振ゴムなどを設置する事によりそれぞれが直接触れないようにした構造のこと
浮き構造により固体伝搬音の伝達を防ぐことができる。これを「防振」とも呼ぶ。
防振効果の向上のために遮音層の重量を大きくすると「質量則」による遮音性能の向上も可能となり一石二鳥となる
浮き構造により結果的に壁・床・天井が2重になり「中空構造」となるため1重の壁よりも空気伝搬音の遮断性能を大きくすることができるため一石三鳥となる(ただし適切な設計が必要)
浮き構造は防音性能を高める上で「一石三鳥」的な合理的な構造と言える
浮き構造は映画館や劇場、ホールなどの大空間でも採用される
浮き床(防振床)のみの設置がされる場合もある
■おまけ
ここでは本編には収まらなかった内容についてまとめています。
もし興味があったら読んでみてください。
●浮き床・浮き壁・浮き天井とは
浮き構造の床・壁・天井は全て防振ゴムなどによって躯体とは直接触れない形になっています。
このような防振ゴムなどによって躯体とは直接触れていない床・壁・天井のことをそれぞれ個別に浮き床・浮き壁・浮き天井と呼んだりします。
●浮き構造を実現している防振ゴムの紹介
浮き構造を実現するためには部屋と躯体との間に防振ゴムなどの弾性体を設置する必要があります。
ここでは実際に使用している防振ゴムの例を紹介したいと思います。
【床に使用する防振ゴム】
弊社で研究・開発した乾式防振床専用防振ゴム「ドンナラン」です。
(上の画像をクリックするとドンナラン特設ページに飛びます)
上の画像の左側に見えるのが防振ゴムで金属でゴムをサンドイッチしたような構造になっています。
中央に黒い部分が見えると思いますがそれがゴムの部分です。
そして、実際に設置した様子が下の写真です。 (この写真は弊社自社ビル内の防振床開発用実験室に設置してあるドンナランです)
実際の「浮き構造」でも床部分はこのように土間の上に防振ゴムを設置し、その上に床組が乗る形になっています。
【天井部分に使用する防振ゴム】
天井部分に使用する防振ゴムは下の画像のようなものです。
(弊社にあったものを撮影しました。)
ネットで「防振吊り金具」などと検索すれば市販されている物を買うことができます。
そして、実際に使っている様子が下の写真になります。
(この写真は以前に工事させて頂いたピアノ教室の防音室の天井部分の施工写真です)
先程の写真と防振吊り金具自体の種類は違いますが使い方としてはこの写真の通り、天井の吊りボルトと天井下地との間に設置する事で天井の防振をするというものです。
浮き構造で登場する防振ゴムは基本的に「床に使用する防振ゴム」と「天井部分に使用する防振ゴム」の2種類が主です。(稀に壁に防振ゴムを使用する場合もあります)
防振ゴムは色々な会社が出しているため、弊社では状況に応じて様々なゴム(及び弾性体)を使い分けています。
以上、実際に使用している防振ゴムの紹介でした。
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